S君のこと

 S君は、昨年の高看昼間部に受講生として入学してきた。高校を卒業して10年ほどの一般企業の正社員として働いた後の転身である。
 入学時の彼の数学力は、卒業後の期間に反比例して一般入試に合格するにはかなりの努力を要するレベルであった。しかし、社会人経験の長さは、彼の特質でもあった。
 すなわち、人とのコミュニケーションに滅私奉公的な優しさがあり、年の離れた受講生にとってはお兄さん的存在として、クラス全体が教えたり教えられたり、励ましたり励まされたりという協力関係が出来上がっていった。
 一般に予備校は、お互いに競争相手ということもあって、なかなかこのような雰囲気にはなりがたいのだが・・・。
 そんな中で、ほとんどの受講生が合格の報に湧いているときにも、彼に吉報は届かなかった。
 社会人入試の一次試験はいくつか合格を得たが、2次試験合格はついにかなわなかった。
 3月も末の頃、1通のメールが届いた。

「もう一年頑張る事にしました。N病院で看護助手の求人が有り応募したところ採用となりました。
一般入試も受験したが不合格であった事情を説明したところ看護部長、看護副部長ともに、よい勉強になるからここに来て働きなさいと言ってくださったので、M市で働きながら勉強します。
復習テスト、校内テストは送ってくださるとのことなので、校内テストだけは採点よろしくお願いします。」

とのことであった。
 それから8カ月、11月の末となって彼からメールが届いた。

「ご無沙汰しております。先生はお元気でしょうか?
 N病院の看護学校の社会人入試に合格することができました。1年遅れましたが、ようやくスタートラインに立つことができます。先生のお蔭で数学がすきになりました。入学まで数学の問題は時間を見つけて解いていくつもりです。
近々お会いできることを楽しみにしています。
ありがとうございました。
取り急ぎのご報告、メールで失礼します。」

 うれしいことに、本来なら、合格が得られれば不得手な数学の勉強からも解放されるはずなのに、数学を入学まで勉強していきたいという。社会人入試なら数学はあまり力になれなかったはずなのに・・・。
 事あるたびに、数学は論理的思考力を養ってくれる学問だからという、私の口癖を覚えていてくれたことがうれしい。
 看護助手としての彼の仕事ぶりが、合格の大きな要因であったことは、想像に難くない。
 彼の人柄、優しさ、自分より他人の面倒を見たがる等の看護師には欠かせない基本的な人間性が彼の転身を助けた。
今度は、「看護師国家試験に合格しました」というメールに接することが待ち遠しい。(T・M記)


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